相模原市の障害者支援施設で2016年7月、46人が殺傷される痛ましい事件が起きた。犯行と精神障害との関係はこれから裁判で争われることになっているにもかかわらず、安倍政権は「措置入院(※)歴がある精神障害者」と決めつけて、入院措置解除後のフォローを都道府県に義務付ける法案(精神保健福祉法改正案)を提出した。
※入院させなければ自傷他害のおそれのある精神障害者を、精神保健指定医2人の診断の結果が一致した場合に都道府県知事が決定して入院させること。
安倍総理は今年1月の施政方針演説で、「昨年7月、障害者施設で何の罪もない多くの方々の命が奪われました。決してあってはならない事件であり、断じて許せません。精神保健福祉法を改正し、措置入院患者に対して退院後も支援を継続する仕組みを設けるなど、再発防止対策をしっかりと講じてまいります」と述べている。
法案は、原則として措置入院中に措置入院者の退院後支援計画を作成することとしており、計画ができるまで退院できず、精神科病院への囲い込みにつながるおそれがあるという問題がある。一方的な決めつけで、精神障害者の人権を侵害するおそれのある法改正を行うことは問題であり、民進党は4月11日の「次の内閣」で反対することを決定した。
民進党が参院厚生労働委員会で厚労省にこの問題をただしたところ、厚労省は13日、「改正の趣旨を法案の内容に即したものにすることで、より分かりやすくするため」といった理由で、法案の概要資料から事件に関する記述を削除することを含め、5カ所の修正を提示した。審議が始まってから法案の資料を修正することは極めて異例。
4月7日に参議院で審議が始まってから1カ月以上にわたり、民進党は廃案を目指して法案の問題を追及してきたが、与党の強い要求により、5月16日、参院厚生労働委員会で採決が行われることになった(写真は法案について質問する足立信也参院議員)。民進党は仮に法案が成立しても、早期に抜本的な見直しが行われるよう、与党に修正案(内容は下記の通り)を提案。修正案は与党の合意を得て可決された。民進党は修正案には賛成したが、重大な問題がある法案本体には反対した。
法案は、与党等の賛成によって参院で可決された。民進党は引き続き衆院で法案の問題点と政府の対応を厳しく追及していく。
修正案のポイント
(1)政府がこの法律について見直しする期限を、法施行後「5年以内」から「3年を目途」に前倒しする。
(2)「必要に応じて」を削除し、「必ず」所要の措置を講ずるものとする。
(3)政府に対し、精神科病院に入院している者及び退院した者の権利の保護の観点から、措置入院者等及び医療保護入院者の退院後の医療その他の支援の在り方等について検討することを義務付ける。特に、以下の3点について検討することを義務付ける。
- 個別ケース検討会議への参加を含む、措置入院者等及びその家族による退院後支援計画の作成に関する手続への関与の機会の確保
- 措置入院者等及びその家族による退院後支援計画の内容・実施についての異議又は修正の申し出の手続の整備
- 非自発的入院者に係る法定代理人又は弁護士の選任の機会の確保