中小企業の活力が
日本を元気にする
その魅力を伝え、支えていく
日本経済の底支えをしているのは、日本企業の99%以上を占める中小企業・小規模企業です。地域に根ざした事業を展開している経営者から北神圭朗衆院議員が現状や課題など、現場の生の声を伺いました。司会進行は田嶋要衆院議員が務めました。
「次の内閣」ネクスト経済産業大臣、衆院議員
田嶋 要(たじま・かなめ)
1961年生まれ。NTT、世界銀行などで17年勤務の後、2003年衆院選で千葉1区で初当選。現在5期目。「政治は子どもたちのためにある」という信念の下、世のため人のために全力投球している。
千葉県中小企業家同友会 代表理事
株式会社ストラクス 代表取締役社長
山本 克己(やまもと・かつみ)
1956年生まれ。千葉県千葉市を拠点に、41人の社員が所属する㈱ストラクスを率いる。公営施設から個人住宅までのリニューアル工事を専門に、東京事業所の設置や秋田、中国での関連会社展開など成長を続けている。
全国商工会青年部連合会 理事
株式会社大澤木材 常務取締役
大澤 宏貴(おおさわ・ひろたか)
1976年生まれ。埼玉県深谷市に本社を置き、7人の社員が所属する大澤木材を支える次世代のリーダー。自身のアイデアで昨年よりスタートしたDIY建材のネット通販が好調な滑り出しを見せている。
「次の内閣」ネクスト内閣府特命大臣(科学技術・IT・宇宙・海洋・中小企業担当)、衆院議員
北神 圭朗(きたがみ・けいろう)
1967年生まれ。92年大蔵省(現・財務省)入省。2005年衆院選で京都4区で初当選。京都を拠点にこれからの日本を支えるべく、「たゆまず、屈せず」の精神で活動を続けている。
中小企業を取り巻く
厳しい現状
田嶋 今日はありがとうございます。まずは現在の景況感をお尋ねします。
大澤 弊社は主に個人住宅の建設、および建築部材の販売を展開しています。ゆえに官需ではなく、民需がほとんど。新規事業の建築部材のネット通販が順調ですが、全体でいえば弱含みか、せいぜい現状維持といったところでしょうか。
北神 東京オリンピック・パラリンピックの影響は?
大澤 あまり関係ないです。むしろ、施工体制で不安を覚えますね。埼玉県では、とび職、型枠工などの人手不足は深刻です。
北神 となると、人件費も高騰している?
大澤 余裕がないのが現実で、弊社は上げていません。しかし職人の生活向上のためにも、上げるべきだと考えています。
北神 今、政府が進める最低賃金アップ施策は経営者側としては厳しくないですか?
大澤 正直、厳しいです。
北神 私は政府主導で賃金を上げることに違和感を覚えます。なぜなら、彼らは現場を知らない。今回の賃金アップ施策は自分たちの経済政策のつじつま合わせと言っていいでしょう。政府の示す中小企業の過去最高の経常利益の数値を精査すると、売上高自体はマイナスです。たまたま起きた原油安によって利益が出たに過ぎません。決して安泰なデータではないんです。
大澤 なるほど。私も過去最高の経常利益という実感は乏しいです。
田嶋 山本さんも同じ建設業とのことですが、いかがですか?
山本 千葉県でも、昨年度までは順調でした。ところが最近は、半年先さえ読めません。弊社でいうと、約4分の1を占める官需の工事では利益率もがくんと落ちています。オリンピックを間近に控え「建設業界は景気がいい」と言われますが、現実は違います。大規模な工事を受注するのは大手ゼネコン。そこからあぶれた工事を中小業者が請け負う、そんな構図です。トリクルダウンは到底期待できません。
田嶋 他に不安要素は?
山本 職人の確保です。先般、社会保険への加入対象が拡大しました。これにより廃業する零細企業や個人事業主が増えています。とび職は3?4人の集団を形成することが多いのですが、彼らは社会保険料を払う余裕がない。そこで他の業界に就職する職人が増え、結果的にわれわれの工事に従事する人員が減っています。もっと困るのが、職人の社会保険加入の確認。なぜなら社会保険料を払っていない者を雇った場合、自治体から指名停止等のペナルティを課せられます。当然、管理体制を敷くのですが、これが大変です。1次下請けまではチェックできても、2次、3次下請けに及ぶと作業員名簿の中身がにわかにずさんになります。悩ましいところです。
北神 政府・与党は雇用保険料を軽減することを打ち出していますが、雇用保険料の社会保険料に占める割合は小さく、効果は限定的です。民進党は、中小企業の負担感の大きい医療・介護・年金の保険料も含む社会保険料全体の負担軽減が必要と考え、そのための法案を提出しています。
大澤 うちは総勢7人の小所帯。販路の拡大が最大の課題です。小さな会社は、利益を上げて初めて次のステップに進めるわけです。そこで商工会青年部の仲間と「いかに売り込むか」を常に検討しています。
田嶋 建築部材のネット通販は、その一環ですか?
大澤 そうです。昨年から起こした新規事業です。DIY建築材の高いニーズに仕掛けた本人が驚いています。ただ今年度に入って宅配業者が大きなモノを敬遠するようになり、仕方なく送料を値上げした結果、売り上げは落ちました。そこで現在、生活資材も取り扱おうと考えています。
中小企業にとって
人材確保は喫緊の課題
田嶋 職人さんが不足しているという話が出ましたが、中小企業にとって人材確保は。
山本 本社スタッフとして会社にマッチした人材を集めにくい状況があります。有名大学の人材は中小企業にはあまり目を向けません。そこでわが社では今いる人材を成長させることに力を入れています。
北神 日本の産業を支える根幹は中小企業。魅力ある会社もけっこうあると思う。私の地元の京都では、河原町の商店街でバイトをして独特の商い文化に魅せられ、そのまま就職した学生がいると聞きました。要するにマッチングの機会が足りない。政府試算によれば、40年後の日本は労働力人口が約半分に減少。だったら外国人労働者を受け入れればいいという意見がありますが、安易に進めるとさまざまな問題が噴出するでしょう。少子化対策をはじめ、もっとマクロの政策を実施する必要があると思います。
山本 加えて言うと、中小企業のイメージを高める政策も欲しいですね。民主党政権で閣議決定した「中小企業憲章」。これを国会決議にして中小企業の地位を高くし、社会にアピールできる環境を整えることはできないでしょうか。例えば寅さんの映画に出てくる「たこ社長」。額の汗を拭いながら資金繰りに奔走してる。中小企業の社長って、いまだにあのイメージなんです。かっこ悪い場所に、若者は寄ってきません。以前、千葉県の中小企業が合同で就職説明会を開きましたが、約100社の出展に対し、来場した学生はたったの10人。衝撃を受けました。われわれの広報のつたなさも一因でしょう。だからこそ政治的アプローチで、中小企業イメージアップ施策を考えていただきたい。
田嶋 大きな組織で歯車になるか。それとも、小さな組織でゼネラリストとして多様な経験を積むか。個人的には後者に魅力を感じますが。ひょっとしたらそこが突破口になるかもしれません。中小企業のアピールについては、民進党としても政府に提案していきます。では、待遇面はいかがでしょう。いまだに大企業との差はありますか?
大澤 給料面での改善はまだまだでしょう。
山本 学生も見てますね。そこで大学生の新卒採用をする会社は、給与から福利厚生まで大企業並みに整えてます。うちもその努力が実を結び、国立大学の学生が入社を希望してくれた。ところが、両親が大反対。これにはお手上げでした。
田嶋 大企業勤務が安泰なんて、もはや神話なんですがね。
大澤 私の会社は、新卒を雇う力はありません。そこで今、画策しているのが、キャリア組の採用です。具体的には、大企業を定年退職された方ですね。ご高齢であっても経験とスキルは私どもの事業に必ず活かされるはずですから。そうした即戦力と知り合える場はないものかと、仲間たちと探っています。
山本 うちでも大企業に勤めた人のシニア採用を実施しています。ただ、最近は大企業も定年延長を実施したため、シニアの有能な人材は限られています。
北神 そうですか。とはいえ、人材マッチングの創出は大事であり、そのためにも政府は各種団体と連携して行動を起こすべきでしょう。
山本 それとともに子どもたちへの教育も大事です。中小企業のかっこよさを伝える場をもっと設けて欲しい。例えば、課外授業での職人体験とか。そうでもしないと、中小企業を志望するキッカケさえありませんから。
大澤 私も元々は大手志向で大手の住宅メーカーに勤めていましたが、戻ってきて家業を継ぎました。今思えば中小企業人として生きる親や格好いい大人の背中を見ていなかったし、見えていなかった。
北神 起業家というのは、中小企業の社長ですからね。冒険心をもって新しい分野を開拓する。こうした中小企業の社長の姿を発信するのも、政治家の役目かもしれません。
ビジネスで命を
取られるのはおかしな話
田嶋 話題を変えて、金融機関の取り引きについてうかがいます。最近は貸し渋りはないのでしょうか?
山本 厳然とあります。銀行は、経営状況が芳しくない会社にはシビアで、金利も高く設定しています。マイナス金利で、金融機関も大変なのかもしれませんが。
たとえ低金利で借りられても、保証協会の保証料が高い。なぜ政府機関なのにあんなに高いのか。はなはだ疑問です。
北神 今国会で保証関係の法案が審議される見込みです。ここで内容が大幅に変わりますが、残念ながら保証料まで及んでいません。モラルハザードの観点から、貸し出し条件はある程度厳しくならざるを得ませんが、リーマンショックのような非常時に素早くケアする制度は不可欠でしょう。
山本 「第三者保証」も問題です。今、融資の保証人は代表者だけという契約が定着しつつあります。わが社も銀行と交渉を重ね、いくつかの第三者保証をはずしてきました。しかしはずせない会社がまだまだ多い。自殺する経営者も少なくない。ビジネスで命を取られるなんておかしいじゃないですか。個人保証がなくなる日を待ち望んでいます。
北神 弱者保護の観点から「第三者保証の禁止」は民主党時代から主張しているのですが、力が及ばないのが現状です。あとは貸す側の姿勢ですね。個人の財産や土地を安易に担保にするのではなく、着目すべきは商品の魅力、事業戦略、社長の人格のはず。それらを目利きするのが融資する側の役目です。地銀や信金の一部は遂行していますが、日本の銀行はおしなべてあぐらをかいていると思います。
田嶋 社会保険料は黒字赤字にかかわらず納めなければならず、中小企業の経営者には重いものかと思います。
北神 まさに人頭税のようなもの。社会保険料についてのアンケート結果をみても、「苦しい」という回答が大多数です。そこで民進党は1兆円強の補助金で負担を軽減し、50万人の雇用を維持する法案を出そうとしています。近い将来、医療・介護の分野での給付が急激に増えることを考慮すると、やはり国民全員で薄く広く負担する消費税の割合を増やす方策が現実的ではないかと私は考えています。
田嶋 では最後に。国に対してどんな支援をお望みでしょう?
山本 「外形標準課税」は、中小企業の経営を確実に圧迫します。雇用維持のためにも、運用拡大は勘弁していただきたいです。
大澤 「小規模事業者持続化補助金」は今後も続けていただければ幸いです。数十万円でもほんとに助かるのです。ただ採択率の低さはどうにかならないものかと。われわれも時間をかけ、思いを込めて申請書類を作成するんですから、審査する側もその熱意に対し真剣に向き合ってほしいですね。
北神 小規模企業はマンパワーに限りがある。手続きの簡略化も考えるべきでしょう。とにかく地域の雇用を維持するには、中小企業そして小規模企業が元気でなければなりません。民進党も精一杯サポートします。
山本 私は民主党が政権を取った時、がっかりしたことがあります。それは、「中小企業が一番大切」と言っておきながら首相が最初にあいさつに行ったのは経団連だったこと。中小企業団体訪問はその次だった。次に政権を取った時は一番先に中小企業家同友会に来て下さい。
北神 厳しいご指摘、感謝いたします。政権を奪取した際は、真っ先に皆さまの元へうかがいます。本日は、お忙しいなか、ありがとうございました。
(民進プレス改題25号 2017年5月19日号より)