昨年8月8日の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」を受け、退位等に関する論点整理が有識者会議で行われ、今月末には政府の方針が示される見通しだ。民進党でも皇位検討委員会(委員長=長浜博行参院議員、事務局長=馬淵澄夫衆院議員)を設置し、有識者ヒアリングを重ねるなど、議論を行ってきている。民進党の論点整理と、昨年末に行った野田佳彦幹事長と漫画家の小林よしのり氏とのネット対談等について紹介する。民進党は当然ながら、この問題は政争の具にしてはならないという立場に立つ。
■党皇位検討委員会、「皇位継承等に関する論点整理」を発表
党皇位検討委員会は昨年12月21日、「皇位継承等に関する論点整理」(下記参照)を発表した。
「国民的検討にむけた論点」として、(1)天皇の退位を認めるべき(2)皇室典範の改正によるべき(3)皇室典範改正の基礎的論点については皇室典範第4条の改正が中心になる。「天皇は、皇嗣が成年に達しているときは、その意思に基づき、皇室会議の議により退位することができる」との規定を新設すべき――等の項目を提示。また今後の検討事項として、女性宮家の創設、皇位継承資格の女性や女系の皇族への拡大への議論喚起等も盛り込んだ。
会見で長浜委員長は、法律改正に関しては「恒久的な皇室典範改正によるところの退位の位置づけがいいのではないか。今上天皇の一代限りの対処を行うことは、安定的な皇位継承という問いかけの本質から外れると考えた」と述べた。また、「日本国憲法第2条で、皇位の継承について、特に『皇室典範の定めるところにより』と要請している。従って、特例法によるのではなく、皇室典範を改正していくべき」と説明した。
■野田幹事長、小林よしのり氏とネット対談
野田幹事長は昨年12月29日、「対談 小林よしのり 野田佳彦――天皇陛下のご退位・ご譲位について――」と題して党配信のネット番組で、大塚耕平広報局長の司会のもと、漫画家の小林よしのり氏と意見を交わした。
野田幹事長は、皇室典範改正には(1)強制退位の可能性を避けるため、天皇陛下ご自身の意思に基づくものであると定めること(2)皇嗣が成人に達していることと定め、即位と同時に摂政を設ける不合理を避けること(3)皇室会議の議決によるものと定め、十分な理由のない退位を防ぎ、退位の客観性を担保できるようにすること――の3点が重要との認識を示した。
小林氏は「そもそも政府の有識者会議で天皇のご意向にも、国民の望みにも沿う形の回答を出してくるのであれば何の問題もなかった。ところが、『一代限りでかつ特例法で』という結論ありきで有識者会議が繰り広げられたことに憤りを覚えた」「退位そのものを否定する意見があったり、8月8日のおことばで天皇陛下が否定されている摂政を、と言う意見もあった。こういう人たちがハードルを上げておいて、『一代限りで、特例法で退位』という形にもってくることで、国民の皆さんが『ほっとした』と納得させられるおそれがある」との認識等を語った。
■論点整理取りまとめに当たって
今回、党の検討委員会の長を務めるに際し、昨年8月8日の天皇陛下のおことばの〝象徴としてのお務め〟について真摯(しんし)に国民の一人として考えなければならないと感じた。そこからは単に高齢だから公務を減らしてほしいということではなく、日本国憲法下での象徴天皇のあり方をもう一度確認してもらえないかという国民に対してのお問いかけと受け止めた。皇位継承のあり方を国民の代表である国会議員の責任として変えていく任務を避けてはならないと考え、検討委員会では、天皇陛下の退位の規定を設けるべきで、それには皇室典範の改定に拠るべきだと論点をまとめた。
政府の有識者会議では今上天皇に限定した退位を可能とする特措法をまとめるとの報道があるが、果たしてそれが、日本国憲法第1条「象徴天皇と国民の総意」とどう整合性を持つのだろうか。ただ、民進党の考え方に固執するつもりはないので、静かな環境で議論がスタートすることを願っている。日本国憲法下で天皇陛下が国民に対して提起された象徴天皇の問題を、内閣がこう決めたのでこれで進めるというのではなく、象徴天皇という意味を日本国憲法の中でどう考えるかを国会できちんと議論する必要があると強く思う。
■■■皇位継承等に関する論点整理(概要)■■■
2016年12月21日 民進党皇位検討委員会
第1 天皇陛下のおことばの受け止めについて
- 「国民の理解を得られることを、切に願っています。」と締めくくられていることを、極めて重く受け止めることが、我々の議論の起点である。
- 本委員会による論点整理は、天皇陛下のおことばについての理解を深めるとともに、象徴天皇、皇室制度のあるべき方向性を示すものである。
第2 国民的検討にむけた論点の提示
1.退位についての論点―天皇の退位を認めるべき
- ご高齢等で、象徴天皇のお務めが果たせなくなった場合、一定条件の下に退位を認める制度を整備することが憲法規定、天皇陛下の問いかけに合致する。
- 公務の負担軽減のみでは万全の対応はできない。憲法が期待し、天皇陛下が体現してこられた能動的な象徴性を確保できなくなる。
- 摂政を置けば良いという主張がある。しかし、その場合も、天皇は象徴としての立場にとどまる。したがって、象徴としての行為を摂政が代行することはできない。摂政を設けることは、天皇陛下の当事者としての資格を否定するものであり、ご健在な陛下に対して、非礼にあたる。
2.法案の形態・内容についての論点 皇室典範か特例法か―皇室典範の改正によるべき
- 退位の制度化は、恒久的な制度として皇室典範を改正する方法と、今上天皇一代限りで退位を認める特例法による対応の2通りが考えられる。恒久的な皇室典範改正によるべきである。単に今上天皇一代限りの対処を行うことは、安定的な皇位継承という問いかけの本質から外れるものである。
- 憲法は、憲法規範を具体化する場合に、下位規範である法律に委任している(法律事項)。その場合、通常は、あくまで一般的な「法律」と言及するのみで、ある特定の法律名を固有名詞として名指しすることはない。 しかし、憲法第2条は、「皇位」の「継承」について、特に「皇室典範の定めるところにより」とし、皇室典範によることを要請している。したがって、特例法によることは、天皇の退位に違憲の疑いを生じさせるとの指摘もある。
- 憲法第41条が要請する、法律の一般性の原則を貫くべきである。特例法は「その天皇固有の問題がある」という判断につながり、適切でない。と同時に、時の政権与党による恣意的運用の危険性を排除できない。この点、皇室典範の中に特例法の根拠規定を設ければよいとの議論もあるが、形式的に「皇室典範」を改正しても、実質的には特例法に全面的に委ねることとなり、憲法第2条の趣旨を潜脱する。また、上記「法の一般性原則」に抵触して、時の政権与党による恣意的な運用の危険性を排除できない点においてもまったく同様であり、許されない。
3.皇室典範改正の基礎的論点
- 皇室典範第4条の改正が中心となる。「天皇は、皇嗣が成年に達しているときは、その意思に基き、皇室会議の議により、退位することができる。」との規定を新設すべきである。
- 皇嗣が成年に達していれば、即位と同時に摂政を設ける不合理を避けることができる。
- 強制退位の可能性を退けるために、天皇ご自身のご意思に基くことを要する。
- あわせて皇室会議の議決によることで、十分な理由のない退位を防ぎ、退位の客観性を担保できる。
- その他の改正事項は、退位された天皇の称号など、付随的なものに限られ、必要となる改正条文は、せいぜい10条以下であり、わずかであるとの指摘もある。
- また、皇室典範改正でも、特例法でも、改正すべき事項と数はほぼ変わらないのではないかとも指摘がある。
- したがって、皇室典範改正によると、特例法に比して膨大な作業と時間がかかるとの指摘はあたらないとの意見も少なくない。
- なお、特例法によることと皇室典範改正によることとの重大な相違点は、特例法による場合、退位の安定性を確保するために欠かせない要件と手続を恒久的に定めることができないという重大な欠陥を免れない。
第3 今後の検討事項
- 小泉内閣の「皇室典範に関する有識者会議 報告書」、野田内閣においての「皇室制度に関する有識者ヒアリングをふまえた論点整理」等を尊重して、議論を進めていく。
- 女性皇族が婚姻後も身分を保持し、当該女性皇族を当主とする宮家(女性宮家)の創設が可能となるよう皇室典範を改正すべきである。
- 皇位継承資格について、女性や女系の皇族に拡大することについても議論を喚起していく。
- 政府は、事柄の性格に鑑み、決して政争の具にされるようなことがあってはならず、各党の意見を丁寧かつ適正に徴すなど、静かで節度ある議論が行われる環境を整えるべきである。
(民進プレス改題20号 2017年1月20日号より)