衆院法務委員会で25日午前、元ウィーン国際機関日本政府代表部特命全権大使で国際大学客員教授の小澤俊朗氏、中央大学大学院法務研究科教授の井田良氏、漫画家の小林よしのり氏、京都大学大学院法学研究科教授の髙山佳奈子氏、元自民党衆院議員で弁護士の早川忠孝氏を迎え、「共謀罪」法案(組織犯罪処罰法改正案)に関する参考人質疑が行われた。質疑には民進党から山尾志桜里議員が立った。
小澤氏は、「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)は組織犯罪の防止のためのミニマムグローバルスタンダードであると言ってよい」と締約の意義を強調。「TOC条約の義務を履行するための国内法を整備していただくことで、TOC条約と関連議定書の締約国となれるようにしてほしい」と、同法案への賛成の立場を表明した。
井田氏は、組織犯罪という犯罪現象が国際社会で極めて危険なものとなり、国際的な協力による対応が必要とされるなか、これに対応して刑法も全世界で共通に処罰の早期化、前倒しの現象が起こっていると指摘。同法案については、「わが国の実務での法適用の場面では立証のハードルが相当高いものになる」と賛成の立場を表明した。
小林氏は、坂本弁護士一家殺害事件へのオウム真理教の関与について発言したことで同教団の薬物テロのターゲットになったこと、薬害エイズ事件での厚生省の対応をめぐり権力に一矢報いようと企てていた2つの体験を紹介。「わしのような人間はものを言う市民。もの言う市民をどう守るかは民主主義の要諦(ようてい)だ。共謀罪が非常に危険なのは、もの言う市民が萎縮して民主主義が健全に成り立たなくなるのではないかということ。わしは自分自身が監視されないかと危惧している」と述べた。一方でテロ対策については、「テロは大抵外国から入ってくる。水際で止めなければいけない。飛行場の管理を民間ではなく国家が管理する必要があるのではないか」などと指摘した。
髙山氏は、「TOC条約の早期締結に賛成する立場であると同時にこの法案には反対する立場」だと表明。刑事法の専門家として、「五輪開催のためのテロ対策を内容としたものではない」「TOC条約との関係で各国は組織犯罪対策として国内法の基本原則に適合するように求めている」「対象犯罪の選別方法が理解できない」などと指摘した。
早川氏は、11年前の同委員会での共謀罪審議の実務担当者の立場から発言。対象犯罪の絞込みについて、メルクマールを現実にテロ組織等の組織犯罪集団が実行する恐れがあること、計画段階で処罰しないと重大な結果が発生すると見込まれる重大な犯罪、実行前の計画段階で処罰することが真に必要だと考えられる犯罪とした結果120~160くらいになったと述べ、こうした議論を進めるよう求めた。
質疑に立った山尾議員は、まず井田氏に対して捜査の開始時期の前倒しや、対象となる人的範囲が広がる類型的な危険の有無について確認。井田氏は「組織的犯罪集団の行為には早めに対応しないと、起こってからでは取り返しがつかなくなる。その意味で捜査が早めになるのは当然ではないか」と答えた。一般の市民が対象になるのではないかとの疑念には、「この法案の作りは決して一般市民・団体を対象にしたものではない」とした上で、「問題は、誤って犯人でない人が捜査の対象になるおそれがあるかどうかだが、誤った人を捜査の対象にしてしまう恐れというのはすべての刑罰法規につきものであり、対応していかなければいけない。今回の法案がとりわけその危険が高いということはないと思っている」と述べた。
山尾議員は、対象犯罪について「私たちは包括的な共謀罪に反対だが、刑法の謙抑性や断片性の原則の観点から少なくとも除外すべきものがあるのではないか」「捜査機関に身を置いてきた立場として、立法の段階で運用に委ねなくていいぎりぎりの検討をすべきだと思っている」と指摘。早川氏は「当時の議論を踏まえると、配慮規定、留意事項がどうしても必要という状況。11年経って議論の詳細を承継できる仕組みになっていないの残念。少しでもいい方向に向かうよう、この法務委員会で修正のための協議を進めていただきたい。犯罪の絞り込みはまだ可能だと思う」と検討を求めた。
山尾議員が、金田法務大臣が「一般の市民は捜査の対象とならない」と発言していることへの見解を尋ねると、早川氏は「(対象になるとした)副大臣の方が法律家に近い感覚でお答えになったのではないか」、髙山氏は「捜査権限が濫用されなくても一般人が対象に入ってくると理解している」とそれぞれ答えた。
最後に小林氏は、同法案がもたらす萎縮効果についての質問に、自身の作品のなかでの左翼の運動家を非難したことで名誉毀損で訴えられた件に言及。「言論の自由はとことん守らなければいけない。名誉毀損にすると萎縮効果が出てしまう」と最高裁で逆転勝訴となったとして、「最高裁の人たちは、言論自由は民主主義の基本だと分かっておられると思う。では政治家はどうなのか」と投げかけた。「普通の一般市民はものを言わないで暮らしたいが、自分がどんな被害を受けたかによっては命懸けでものを言わなければいけなくなる。そのときにらまれてしまい、『メールが読まれてしまっているのではないか』『電話を盗聴されているのか』ということを考えて運動しなくなるのは、それだけで民主主義がかなり萎縮されると思う」「日本は公共性が広く担保されていて言論の自由もある世界だ。そういう日本の社会を守っていこうと思うのが愛国心だ」と強く訴えた。