これまでの農政とこれからの農政


日本農政はどうあるべきか。現場を起点に未来を考える

 全国農協青年組織協議会(JA全青協)の飯野芳彦会長を「次の内閣」ネクスト農林水産大臣の村岡敏英衆院議員が訪ね、日本農業の今後の在り方をめぐって意見を交わした。政務調査会副会長で農政改革研究会座長の小山展弘衆院議員が司会進行を務めた。

飯野 芳彦(いいの・よしひこ)JA全青協会長 

飯野 芳彦(いいの・よしひこ)JA全青協会長 

一番の懸念は、食料自給率の低迷

 小山 本日は現場感覚でのお考えをお聞かせいただきたく伺いました。まず戦後の日本の農政について、どう考えていらっしゃるかをお話しいただけますか。
 飯野 戦後の食料増産に始まり、その後も食料の安定供給に向け、国を挙げての取り組みが行われてきました。その一方で、食料自給率(※)でみれば、戦後ずっと低迷し続けている。これは大きな問題です。
 村岡 戦後の食料不足の中で増産に向けて農家の方々に頑張っていただき、技術革新や品種改良もあって収量が増えました。ところが減反政策をとった。これが発端です。これにより農産物の販売は国内止まりになりました。どこの国でも食料の安全保障は一番大切。食料自給率を確保しながら、さらに強みのあるものを輸出していかなければ、日本の農業は成長しないし、新しい時代にあったものへと変化できません。
 小山 安倍政権下では「変える」こと自体が目的になっている感があります。その前段として、変えてはならないものは何だとお考えですか。
 飯野 中山間地から平野部、海に至るまで、農村や漁村などの一体となった地域のまとまりは日本にとって必要なもの。変えてはいけない普遍的な姿なのではないでしょうか。
 村岡 山があって、林業があって、水がそこから来るから、農業が成り立つ。都市はもちろん、農村や漁村には、伝統やお祭りなどの文化があ
って、地域社会がつくられる。そこは絶対に変えてはいけない。その上で、今の時代への対応ですね。
 飯野 インターネットやAIなどの技術が発展しています。村岡さんがおっしゃるように、新しい時代に合ったものを農村で活用することで、人の流れも都会から農村へと変えていければいいと思います。
 村岡 「田園回帰」という言葉がありますが、国やJAの方々が協力し、自然環境と農業があって、その上で仕事と教育の場をそろえていくことで、これまでとは違う流れを推し進められるのではないでしょうか。

村岡 敏英(むらおか・としひで) 「次の内閣」ネクスト農林水産大臣衆院議員

村岡 敏英(むらおか・としひで)

「次の内閣」ネクスト農林水産大臣衆院議員

「国産品を手に取る」ことの重要性

 小山 新たな時代を迎えるための農業政策として、民主党政権時に導入した、農業者戸別所得補償制度についての見解をお聞かせください。
 飯野 戸別所得補償制度は、大いに営農の下支えとなりました。ただし国費による支援ですから、国民の広い理解が必要です。そのためにはやはり、食料自給率の問題が、国民に理解されなくてはいけません。
 村岡 英国などでは、中山間地の農業は環境を守るためにあるということが、しっかり理解されています。
日本全体の消費者の方々にも、国産品を食べるということの重要性を理解してもらうことが必要です。
 飯野 わが国は急流が多く、水害が頻発しましたが、農業土木の発達と先人たちの努力によって随分減りました。持続的に営農する人がいてはじめて、そうした農業の多面的機能が維持できることを、食農教育を通じて伝えていけば、「国産品を手に取ろう」という意識が醸成され、食料自給率の向上につながるはず。国民全体の運動としていきたいです。

 小山 地産地消や旬のものを旬に食べる旬産旬消、農業による多面的機能の維持が重要ですね。国民的理解を得る上でも大切な視点です。

小山 展弘(こやま・のぶひろ)政務調査会副会長 農政改革研究会座長 衆院議員

小山 展弘(こやま・のぶひろ)政務調査会副会長 

農政改革研究会座長 衆院議員

「協同」がもたらす、豊かな地域社会

 小山 農業競争力強化支援法、農協改革、米の生産調整の廃止等、今、農政がめまぐるしく変化しています。どう受け止められていますか。
 飯野 短期間でさまざまなことが変わったものですから、今、それを理解する作業の真っ最中です。その上で、政府に対し、改善点の提案をしていかなければいけないと思っています。農協改革についても、われわれ自身の自己改革をスタートさせました。国民の皆さまに理解を得られるようにしていかねばなりません。
 村岡 農協は組合員の集まった「協同組合」であり、民間組織ですから、まずは自己改革がスタートであるべきです。JA全青協のポリシーブックを拝見すると、課題が自助、共助、公助という具合に整理されていて、提案・要望も分かりやすい。若手農業者を中心に変化が起こっているという印象です。
 飯野 まず自らの力で行う「自助」、次に共に助け合う「共助」、それでもダメなら「公助」。今まではそれがごっちゃになっていましたが、それをしっかり整理したのが「ポリシーブック」です。
 小山 ドイツの協同組合の考え方や活動が、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。協同組合の理念があらためて見直されていますね。
 飯野 協同組合は、弱き者も強き者も共に働き合うことによって、共通の利益を実現し、安定した地域づくりに寄与するものです。個が強調されるグローバル社会でも、協同の良さやそれがもたらす恩恵に注目が集まってきたのではないでしょうか。ツイッターやラインのグループも、まさに協同じゃないですか(笑)
 村岡 一般消費者にとっても、協同組合の恩恵は大きい。協同組合のおかげで安全な国産農産品が手に入ります。協同組合を見直すことは、消費者利益にもつながります。
 飯野 協同組合に属している人間も、市場経済の恩恵を多大に受けています。市場経済主義と協同の両輪がバランスをとることで、より安定した豊かな社会を実現したい。そのことを分かりやすい言葉で伝えていかなければなりません。
 村岡 「国の基」である農業が根づいていることが、国全体の文化や日本の姿を作っていく。政治の場でも農業を大切にすることの重要性を教育に盛り込むことなどに取り組んでいきます。

※食料自給率 国内の食料消費が、国産でどの程度賄えているかを示す指標。カロリーベースは39%、金額ベースは66%(いずれも2015年度)。


(民進プレス改題27号 2017年7月21日号4面より)

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