参院本会議で25日午後、安倍総理の施政方針演説など政府4演説に対する代表質問の民進党3番手として牧山ひろえ議員が質問に立った。冒頭、安倍政権のこれまでの歩みを振り返り「『日本を取り戻す』どころか、日本の良さを削ぎ落としていくもの」と深い憂慮を示した。
「唯一の被爆国として、日本ならではの世界への貢献の仕方を考えるのではなく、海外での武力行使を可能とする。派遣法の改悪で“生涯”派遣で“低賃金”、結婚や子育て等将来設計もままならない状況を当たり前にする。いじめや子どもの自殺が続発する中で、少子化を理由に、教育の予算を減らそうとする。物価が上がった場合でも賃金が下がれば年金は容赦なく下げる」などと問題点を列挙。そのうえで、「働く世代が安心して仕事ができ、老後の社会保障も安定していたこの国の良さをこれ以上破壊しないで欲しい」と安倍政権が押し進めてきた政治の転換を求めた。
(企業活動への介入について)
米国のトランプ新大統領が、就任前にトヨタ自動車のメキシコ新工場建設計画を批判したことについて「NAFTAの見直しを行う以前に、個別企業の経営に介入するような今回のやり方は、私たちが共有しているはずの自由主義経済をゆがめるもの」と問題視した。こうした事態に対して日本政府は本来、「ルールに基づいて自由な経済活動している企業を攻撃するのはいかがなものかと意見すべきではないか」と指摘。今後も似たようなケースが相次いだ場合、日本政府は今回のように傍観するのかと対応策についてただした。安倍総理は、「主張すべきは主張し理解を深めたい」と述べ、トランプ新大統領のやり方に何の疑問も示さなかった。
(日米地位協定について)
日米地位協定のあり方に起因する最近の問題として(1)2016年12月のオスプレイ事故の際、事故現場を米側が統制し、日本の捜査権が及ばなかった(2)2015年8月に発生した米陸軍相模総合補給廠の爆発事故の際に、日米共同調査が行われたのは3日後の1回限りだった――こと等を取り上げ、これらが日米地位協定及びその関連文書で米軍の管理権が規定されていることによるからだと分析。日米地位協定のあり方について「米軍関係の事故発生時に日本の捜査当局が十分にそしてタイムリーに捜査を行い原因究明に当たることができるようにすべきではないか」と見直しを求めた。安倍総理は、日米地位協定の見直しには触れず、個々の問題に応じて対応してきていると述べるにとどめた。
(同一労働同一賃金)
「働き方改革」の主要課題である「同一労働同一賃金」については、パートタイム労働者の賃金水準がフルタイム労働者の6割に達せず、同一労働同一賃金が浸透している欧州の8~9割と比較して極めて低い水準であると指摘。「正規・非正規労働者間の格差是正に資する同一労働同一賃金の実現のためには、労使で対立のあった際には司法の場で判断を仰ぐことにより、その実効性を確保することも重要だ」と提起した。そのうえで、「同一労働同一賃金の実効性確保のため、法案化に当たっては、『処遇差の合理性の立証責任は使用者が負う』ことを明記すべきだ」と提案し、安倍総理の見解を求めた。安倍総理は「法改正の内容については働き方改革実現会議等の場で議論していただきたい」と真正面から質問に答えることを避けた。
(介護の負担増)
介護保険制度に関して、安倍政権が中所得高齢者の高額介護サービス費の月額上限引き上げ、介護納付金の総報酬割の導入、現役並み所得の高齢者の利用者負担割合の引き上げなど、高齢者や現役世代の負担を一層強いる改革を実施しようとしていると指摘。「介護保険制度のみが持続可能となっても、肝心の要介護者やその家族が必要な介護サービスを利用できなくなるようでは、本末転倒と言わざるを得ない」と批判。介護の負担増によって発生する事態について安倍総理の認識をただしたところ、「必要な介護サービスが利用者に行き届くよう高齢者の生活を支える」と述べた。
(教職員定数の改善)
未来を創る子どもたちの教育問題に関して、いじめ・不登校や貧困等への対応を推進するためには、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーのさらなる拡充が重要だが、非常勤として配置されることが多いと指摘。これらの専門職について「将来的には正規の職員として規定するとともに、教職員定数に含め、国庫負担の対象とすべき」との考えを示し、安倍総理の見解をただした。安倍総理は「より質の高い教育が実現できるよう必要な検討を進めていく」と答弁した。
最後に牧山議員は安倍総理に対して「明日の暮らしに行き詰まる非正規社員、将来に夢を持てなくなっている若者、老後に不安を抱える高齢者が急増している中で、現在と未来の国民にとって本当に一番優先すべきことは何なのかということを真摯(しんし)に自省してほしい」と求め、質問を終えた。